朝一と直前どちらの異常オッズが有利?

そもそも異常オッズとはなにか?

朝一オッズと直前オッズの話をする前に、まず、異常オッズとは何を指すかを説明しておきます。異常オッズの定義を明らかにしておかないと、「朝一オッズだ! 直前オッズだ!」といっても意味はありません。

「異常オッズ」とは、通常では考えられないほどのオッズ変動を指します。その原因は複数ありますが、ここでは競馬関係者が内部情報(インサイダー)に基づく投票の結果、オッズとして現れたものを「異常オッズ」といいます(異常オッズの原因については下記の記事参照)。

異常オッズを引き起こす5つの原因

ここで重要なのは、急激なオッズ変動を引き起こしたのが、インサイダー情報を知っている関係者が引き起こしたという点です。

インサイダーとは内部関係者のことを指し、特に金融の世界では「関係者しか知りえない情報をもとに、株式などを購入して利益を得ること」を指します。ただし、株式などではインサイダー情報による取引を法律で禁止しています。

ここでは、「内部情報を使って投票する関係者」のことを「インサイダー」と呼ぶことにしますが、異常オッズの原因であるインサイダーが異常オッズを引き起こす時間を決めています。

オッズを観測する場合、この点を常に意識しておく必要があります。

朝一オッズが流行った理由

オッズを使って競馬予想をする「オッズ競馬」は、今から30年ぐらい前から始まっています。そして、20年前までは異常オッズといえば、朝一オッズと呼ばれていた時代が確かにありました。

そもそもの発端は、異常オッズを扱った書籍が書店にみられるようになってからです。競馬予想法の書籍は、今でも数多く出版されていますが、当時は「必勝法」にこだわる傾向が強く、書籍に書いてある方法で「いかに簡単に儲かるか」を競っていた時代でもあります。

オッズ競馬は、オッズを取得して、異常オッズの検知作業を読者が手作業でする必要があり、ある程度の時間的余裕がないと読者側で実践することが難しかったのです。

出版社も、自社の本が売れないと商売になりませんので、読者が実践できない必勝法を取り扱うことはありません。

朝一オッズは、そういう出版社側の都合と、20年以上前の競馬環境もあわさり、書籍を中心に広がっていきました。

昔の競馬環境は現在とは異なり、ネット投票が全盛というわけでなく、ウィンズや競馬場などで直接馬券を購入するスタイルが全盛でした。まだ、第1レースが出走する前の朝9時台は来場者もまばらで、大金を投票するのに都合がよかったというのが、朝一オッズの根拠とされました。特に朝9:30のオッズが良いとされたのは、開場して30分くらい経てば、インサイダーも投票を済ませているだろうという推察に基づくものです。

実際、締切時間まで余裕のあるレースで、大口の投票が入るとすぐに話題に上りました。

最も有名な事例が、2003年の宝塚記念で発生した「ミラクルおじさん」です。

ミラクルおじさんとは?

ミラクルおじさんとは、2003年の宝塚記念で、単勝6番人気 16.3倍のヒシミラクルの単勝を、1点で的中させて1億9918万円を手にした人です。16.3倍の配当なので、実際の賭け金は1222万円と超高額で、高額賭け金でも話題になった人です。

この人は、前日の土曜AM11頃に新橋のウィンズで、ヒシミラクルの単勝を購入しました。この時、安田記念の当たり馬券を窓口に出して購入したことで、当時のマスコミや競馬ファンの耳目を集めました(後日、当日換金したお金をそのまま投票したと判明)。

当たり馬券で購入したことから、単勝のコロガシで賭け金を増やしていったことがわかっています。宝塚記念は4回目の単勝のコロガシであり、1222万円を投票したことで、ヒシミラクルの単勝オッズが1.7倍の1番人気になりました。しかし、その後、一般競馬ファンが投票したことで、ヒシミラクルは本来の人気に近づき、最終的に6番人気になっています。

ミラクルおじさんの語源は、ヒシミラクルで約2億円を手にしたので、ヒシミラクルおじさんだ、奇跡のような配当(ミラクル)を手にしたのでミラクルおじさんと言われています。実際には、マスコミが前日取り上げているので、ヒシミラクルの名前からでしょう。

ミラクルおじさんの前日の投票は、オッズ異常分析ソフトでもしっかりと観測されていました。しかし、その手法は単勝のコロガシなので、インサイダーではありません。

ミラクルおじさんの例ではありませんが、パソコン・ネット環境が充実することで、早めの時間に発生する異常オッズは、オッズ分析ソフトで観測されるようになりました。

インサイダーの心理と行動

インサイダーは利益優先

もし、あなたがインサイダー情報を得たらどうしますか? 違法性がないなら、その情報で十分な利益を得たいと考えるでしょう。あなたに、インサイダー情報をもたらした人も、あなたにそれで利益を得てほしいから情報を漏らしたはずです。

となれば、インサイダー情報を得た側は、自分の利益を最大限に優先するはずです。利益になる貴重な関係者情報を他に漏らす理由はありません。

まず考えるのは、インサイダー情報で得た馬が、どの程度の人気になるかでしょう。せっかく得た情報でも、最初から1番人気に押されるような人気馬であればうまみはありません。情報を得たのが馬主であれば、むしろ表彰式のために準備をお願いされるでしょう。

これが賞金の高い後半レースであればなおのことです。

馬券を買う場合に、自分の買う馬がどの程度の人気になっているかを確認するのは、インサイダーでも同じです。さすがに、どの馬が何番人気になるかまでは伝えられませんし、あまり意味がありません。もちろん、関係者は競走馬のプロなので、出走馬のメンツを見て、人気に押されそうな馬はわかっているでしょう。自厩舎の出走馬であれば、人気サイドなのか人気薄なのかはだいたいわかっているはずです。

インサイダーは、ある程度一般票の入ったオッズを見て、自分の狙う馬が人気薄になっているかを判断します。

また、それ以外になるべく異常オッズとして検知されずらい時間に投票しようとします。それが締切直前です。朝一オッズでは、オッズ分析ソフトはもちろんのこと、オッズ分析を主体としない一般人にもわかってしまいます。

これらを加味した結果、2022年現在は朝一オッズではなく、直前オッズにインサイダーの異常票がはいります。

インサイダーの投票行動

ここでは、最もインサイダー投票をする確率の高い人を「馬主」と想定して説明します。馬主は競馬関係者に最も近い位置にいて、異常オッズを起こせるほどの経済力を持ち、関係者の中でも罪に問われないためです。

騎手、調教師、厩務員、JRA職員などは競馬法により、馬券の購入を禁止されています。

次に関係者に近い立場は競馬記者ですが、彼らの経済力や関係性から異常オッズを起こすほどの影響はないと考えています。

さて、馬主はどのように馬券を購入するのでしょうか?

馬主はある意味究極の競馬好きです。競走馬を持つことが儲かると聞いて馬主になる人よりも、競馬が好き、馬が好きで馬主になる人の方が圧倒的に多いはずです。

実際、過去に知り合った馬主は、みんな競馬好きでした。

馬主は所有馬の賞金はもちろん、自分の馬の馬券を買って応援したり、儲けたりします。重要なのは応援馬券ではなく、「儲けを出すための馬券」を買うときです。

馬主が馬券を買うパターンは大きく分けて2つあります。

1.買い子に買わせる

買い子とは読んで字のごとく、馬主の代わりに馬券を買う人を指します。買い子は馬主の言われたとおりの買い目を競馬場やウィンズなどで購入します。買い子は一人とは限らず、複数いる場合もあります。

2.馬主席で購入

馬主だけが入れる馬主席で購入する場合、2種類の人がいます。ひとつは、普通の競馬ファンと同じく、馬券を買う際にその都度お財布からお金を出す人。もうひとつは、ポケットから札束を取り出して購入する人。当然、異常オッズとして表れるのは、後者ですね。

2020年までは、インサイダーを起こす馬主は、あまりネット投票を利用しませんでした。しかし、ご存知のようにコロナ渦がはじまり、競馬も無観客開催になりました。この時、異常オッズは滅んでしまうのでは? と心配したものでしたが、結局ネット投票に流れ、インサイダーによる異常オッズは現在も発生しています。

投票行動に多少の変化はあっても、インサイダーはなくなりません

データでみる朝一オッズと直前オッズ

最後に、直前オッズと朝一オッズどちらに優位性があるかを検証してみたいと思います。

<検証条件>

  • 2017年1月1日~2021年12月31日
  • 9R以降
  • 500万条件以上
  • 朝一オッズは、07:30~09:35の異常オッズ

直前オッズ・朝一オッズ 1~4位比較

名称R数勝率複勝率単回収複回収
直前429416%40%97%94%
朝一420216%40%79%79%
朝一※37998%26%66%68%
朝一オッズと直前オッズ比較(1~4位)

直前オッズ・朝一オッズ 1位比較

名称R数勝率複勝率単回収複回収
直前427225%51%108%97%
朝一420223%50%74%79%
朝一※106510%33%48%67%
朝一オッズと直前オッズ比較(1位のみ)

※印付きは、直前オッズ異常を除外した朝一オッズ異常

直前オッズと朝一オッズの勝率と複勝率を比較すると、どちらもあまり差はありません。しかし、回収率でみると、直前オッズに異常が入った馬の方が高くなります。

それに対して朝一オッズ異常は、単回収・複回収がほとんど控除率を除外した75~80%になっていることから、単なる人気馬を集計した結果といえそうです。

なお、朝一オッズ異常から直前オッズ異常を除外すると、的中率・回収率が一気にさがります。直前オッズも、指数順位で異常馬を定義した場合、人気サイドに偏る傾向がありますが、単純に指数順位で比較した場合でも、優劣は見て取れます。

そもそも直前オッズ異常と、朝一オッズ異常では、検知される異常オッズの金額が大きく異なり、朝一オッズは一般投票と変わりない金額しか異常がみられませんでした。

朝一オッズと直前オッズを時系列で比較

上の図は2022年6月26日 阪神9Rの時系列オッズを表示したものです。
朝一オッズは数字が小さいので、数値を拡大するために30分間隔で見ています。

1着になっている13番の馬は、朝一オッズ異常が8であり、直前オッズ異常(30分間隔ではなく1分間隔)は63となります。

もしかしたらもっと効果的な朝一オッズ異常の検知方法もあるのかもしれませんが、直前オッズ異常の検知方法と合わせると、目視でも数値でも優勢は確認できませんでした。

異常オッズがインサイダーによるものだとするなら、インサイダーが投票している時間に合わせるよりほかはないでしょう。

この記事のポイント
  • 異常オッズとは、インサイダーが投票した結果現れるオッズ異常のこと
  • 20年以上前は朝一オッズが流行った時期がある
  • 朝一オッズが流行った背景に、書籍での扱いやすさがある
  • インサイダーは利益優先なので、自分の狙う馬が人気薄であることを好み、締め切り直前に投票する
  • 現在は、朝一異常はほとんど見られない